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井上ハルカ・サクソフォンリサイタル [音楽のこと]

今年最初の「ワンコイン市民コンサート」は、『井上ハルカ・サクソフォンリサイタル』。新進サクソフォニスト新春サクソフォン・ショウ?

 

ワンコイン市民コンサートシリーズ 第61回」は、音楽教育の世界最高峰であるパリ国立高等音楽院で古典から現代音楽まで幅広く学び、フランス電子音楽作曲の牙城となるIRCAM(Institut de Recherche et Coordination Acoustique/Musique・フランス国立音響音楽研究所)でのサクソフォンと電子音響のコラボレーションなど多方面での活動を行う、愛媛県出身で大阪府在住、井上ハルカさんのソロリサイタル。

そのプログラムは・・・、

クロード・ドビュッシー管弦楽とアルトサクソフォンのための「ラプソディー」(ピアノ伴奏版)
バンジャマン・アタイールソプラノサクソフォンとピアノのための「Coïneidences」(日本初演)
アンドレ・カプレアルトサクソフォンと管弦楽のための「伝説」(ピアノ伴奏版)
ステファノ・ジェルバゾーニソプラノサクソフォン独奏のための「PhanesⅡ」
モーリス・ラヴェル「ソナチネ」(ダヴィッド・ワルター編曲版)
田中カレンアルトサクソフォンとエレクトロニクスのための「ナイト・バード」
アンドレ・ジョリヴェソプラノサクソフォンとピアノのための「リノスの歌」

と、ほぼほぼフレンチ仕込み。

が、ドビュッシーラヴェルはともかく、それ以外はあまり馴染みがないような・・・。
彼ら二人を除いては、現代の作曲家がずらり。フレンチはフレンチでも、「ヌーヴェルキュイジーヌ(nouvelle cuisine)」?

それもそのはず、サクソフォン(saxophone)は、1840年代にベルギーの管楽器製作者アドルフ・サックスによって考案された新しい楽器。大バッハ楽聖ベートーヴェンの時代には存在しない、近現代音楽の寵児。パリで活躍したショパンも、フランス生まれのクープランラモーサックスはご存知ない。
ポップス、ロック、ジャズ、特に吹奏楽やビッグバンドでは花形となるが、クラシック界ではピアノと同様に新参者扱いで、(古い時代の)オーケストラに列していないのはそういう理由。
が、その滑らかなフレージングと豊かで幅広いダイナミックレンジに、まず新しい時代のフランスの作曲家たちが飛びついた。
主に真鍮などの金属で作られるが、分類上は木管楽器とされる、木管楽器類と金管楽器類の美味しいところだけミックスしてみましたァ・・・な楽器。用途、奏法に応じた大きさや形状の異なる多くのヴァリエーションが存在する。

今ではクラシック・サクソフォニストも多くいて、パリ国立高等音楽院で研鑽を積み、昨年帰国したハルカさんもその一人。本日のプログラムも、フランス近現代のフレーヴァーも芳しい、感性豊かな楽曲が並ぶ。

リサイタルのテーマは『流動性:混じり合うもの、ぼかし合うもの(Fluidité: mélange et flou/Fluidity: mix and flow)』とのこと。
さて、そのココロは・・・?!

いつもの通り、開場が14:30。
ステージには大阪大学会館常設の1920年製Bösendorferがスタンバイ。そのヴィンテージ・ピアノを演奏するのは戸田恵さん。兵庫県立西宮高等学校音楽科卒業後、渡仏。現在、大阪、名古屋を中心に演奏活動を行っている他、パリエコールノルマル音楽院教授、中沖玲子氏のアシスタントを務めながら、後進の指導にも力を注いでいる・・・というピアニスト。

開演は15:00。
ステージに現れた二人の女性演奏家は何れも、目にも艶やかなターコイズブルーさんがBösendorferにスタンバイし、ハルカさんがアルトサックスのチューニングを終えたところで、プログラム一曲目。

サクソフォンと管弦楽のための狂詩曲」はクロード・ドビュッシーが1901年から1911年に掛けて作曲するも、未完に終わり、ジャン・ジュール・ロジェ=デュカスが補筆。どこまでがドビュッシーで、どこからがロジェ=デュカスかは分からないが、のちに作曲されたフルート独奏曲「シランクス」に通じる幽玄さが垣間見える佳曲。今日は、「オケ版」ではなく、ピアノを従えての演奏。管弦楽版の華やかさ、煌びやかさもいいけれど、ピアノ伴奏版は、デュオとしての纏まりもよくて、聴き応えはオケ版に劣らない。サックスだけが目立ち過ぎず、Bösendorferとのバランスがいい感じで、双方が引き立て合うような。ドビュッシーの世界観も十分表現されていたように感じます。

つづくバンジャマン・アタイール、残念ながら存じ上げませんが、彼もおフランスの作曲家?
井上ハルカさんとワンコイン市民コンサート実行委員会代表の荻原先生の解説によると、アタイールは1989年生まれの若い作曲家で、つい先ごろ「ローマ賞」を授与されたばかり、ローマ・メディチ荘に滞在中のバリバリ新進気鋭。
いわゆる現代音楽の範疇に入るのだろうが、前衛的でありながら、どこか懐古的。ビンビン突き刺さるほど尖鋭的でなく、なんとなく懐かしい。最先端なんだけど、難解なまでの尖端を感じさせないで、どこかフランスの伝統を匂わせる。そのあたりが「ローマ賞」に通じた? アヴァンギャルドでノスタルジック、その揺らぎが、その塩梅が、新しくて面白い。

前半の三曲は、フランス国家が授与する奨学金付留学制度「ローマ賞(Prix de Rome)」受賞者の手による作品・・・というくくり。
その賞は、1663年、ルイ14世によって創設され、1968年の五月革命時に反権威主義運動に因って廃止され、1971年からは「奨学金給付生(pensionnaires)の選定」という形に改められた。1803年に追加された「音楽賞」は、1968年以降「若手作曲家のためのメディチ荘滞在制度」と変更されて今に至る。
ドビュッシーは三度挑戦し、予選落ち、二等賞、大賞という成績で、1884年、三年目にして手にした念願のローマ留学を、その地に馴染めないからと途中で切り上げて帰国してしまっている。なんか、有難いんだか、有り難くないんだか・・・。
ベルリオーズ
ラヴェルは切望し、何度も応募しながら、グランプリを得られなかったのだから、それなりの権威があるのでしょう。

1901年にその大賞を得たアンドレ・カプレドビュッシーの楽友で、ドビュッシーのバレエ曲や劇音楽のオーケストレーションを補筆してみたり、ピアノ曲を管弦楽用に編曲してみたり、そういった面では共同制作者的才能を発揮するも、自身の楽曲は然程知られていない。ドビュッシー作品の多くを初演しているヴァイオリニスト、コンダクターでもある。
牧歌的で柔らかな旋律が徐々に熱を帯びて、高みの果てに昇華する。そして、それは静かに立ち消える。そのlegendは何を語るのか。

15分の休憩を挟んで、その間にハルカさんとさんはともに衣装替え。後半は眩しいほどに真っ白なドレスで臨む。

その1曲目は、ソプラノサクソフォン・ソロで、ステファノ・ジェルバゾーニPhanesⅡ」。
ジェルバゾーニは1962年生まれの現代音楽家。ベルガモ生まれのイタリアンではあるが、現在パリ国立高等音楽院で作曲家教授を務めておられるお方。
Phanes(フェーンズ)は古代ギリシアの、さらに古い時代の創造神パネースで、ジェルバゾーニはそれをテーマとしつつ、蝶々の飛翔からインスピレーションを得たのだとか。「Phanes」がフルート独奏で、「Phanes Ⅱ」がソプラノサックス。緩急の変化と特殊奏法による表現が"音楽的"というより"音響的"。管楽器のテクニカルな部分はよく分からないが、歌うような・・・というより語るようなタンギングで、蝶に化身した古代神がふわりと揺蕩う。

ソナチネ」はモーリス・ラヴェル1903年から1905年に作曲したピアノ独奏曲。今日演奏されたのは、それをオーボエ奏者ダヴィッド・ワルターが管楽器とピアノの二重奏に改めたもの。前半1曲目の「狂詩曲」もそうなのだが、いい曲はどう料理しても美味しく頂けるといった好例。前曲がちょっとスパイシーだっただけに、ちょうどいい口直し?

ナイトバード(Night Bird)」は田中カレンが1996年に発表した作品で、「アルトサクソフォンとエレクトロニクスのための」とある通り、サックス以外はMacBook Proによるライヴ・エレクトロニクス。アタイールジェルバゾーニと違って、ずっとアンビエント。エフェクトされてベールのような透明感のあるサウンドが広がる中を端正なアルトサックスの声が通る。

プログラム最後の「リノスの歌(Chant de Linos)」はアンドレ・ジョリヴェ、1944年の作品で、これもギリシア神話を材源としている。
リノスは、文字の発明者とも言われ、オルペウスと並ぶ音楽の名手・・・なのだけど、ヘーラクレースにその竪琴で殴殺されるという最期を迎える。
この「リノスの歌」もリリカルで牧歌的・・・なようで、それほどのほほんとはしていられないような・・・。どこか、物悲しくて、恨めしい?! 「古代ギリシアの挽歌の一種。死の嘆き、叫びと舞いによって随所中断される哀歌」とジョリヴェ自身が注釈しているが、変拍子ばかりでノリづらい。

アンコールはラヴェルハバネラ形式の小品」。ちょっとエキゾチックなデザート。

フランス近代を代表するドビュッシーラヴェル、その合間に現代音楽を配しながら、非常にヴァランスの取れたプログラムだったと思います。
斬新さだけを追い求めるのではなく、フランス伝統の音楽、あるいは古代ギリシアから連綿と続くヨーロッパ音楽の系譜に則り、その礎のうえに立脚した、フランスらしい現代音楽(だけじゃないけど)。
ドビュッシーラヴェルも19世紀末〜20世紀初頭の最先端。アヴァンギャルド(avant-garde)でもあるのだけれど、レトロスペクティヴあってのプロスペクティヴ。

リエゾン(liaison)やアンシェヌマン(enchaînement)、エリジオン(élision)、インタヴュウの中で、フランス語の発音についてのお話しも出たのだけれど、その言語が表象するように、フランスの音楽は、かっちり厳格な獨澳圏のそれと違って、流れるようなしなやかさ、軽やかさが信条。音楽に限らず、何せ、"印象(impression)"とか"象徴(symbol)"とか、ニュアンス(nuance)重視のお国柄。
流動性:混じり合うもの、ぼかし合うもの(Fluidité: mélange et flou/Fluidity: mix and flow)』
素材(楽曲)の良さを引き立てながら、料理人(演奏家)の手腕も披露する。ただ技巧的なだけでなく、色彩感と感性溢れる、前衛と伝統が溶け合う絶妙の風味で、まるで「ヌーベルキュイジーヌ(nouvelle cuisine)」をフルコースで頂いたようなリサイタルでした。音数を控えて、全体に薄口なんだけど、後に残る印象がしっかり味わい深い。
大変美味しゅうございました。
ですッ!!

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さて、「ワンコイン市民コンサート」、次回からはしばらくピアノ・リサイタルが続きます。来月が加藤幸子さん、『ショパン・レトロスペクティヴ』と題されたオール・ショパン・プログラム。3月が瀬崎紀子さんのプーランク(青柳いづみこさんの朗読つき)。4月は今峰由香さんで、こちらはオール・ベートーヴェン・プログラム。5月は青柳いづみこさんの特別公演、高橋悠治さんとのキャトルマンでストラヴィンスキー。
年内のラインナップは以下のとおり。詳しくは「ワンコイン市民コンサート」のHPをご覧あれ。

02月19日(日):『加藤幸子ピアノリサイタル「ショパン・レトロスペクティヴ」』
03月12日(日):『瀬崎紀子ピアノリサイタル「天才フランシス・プーランクの魅力」』
04月09日(日):『今峰由香ピアノリサイタル』
05月14日(日):『ワンコイン市民コンサート5周年特別コンサート「青柳いづみこワールド(仮称)」』
06月18日(日):『橋本京子ピアノリサイタル』
07月15日(土):『武久源造「ピアノの発見 第3章」』
07月16日(日):『武久源造マスタークラス』
08月20日(日):『デュオ・ヴェンタパーネ:白石茉奈(Va)+マルティン・カルリーチェク(Pf) デュオリサイタル』
09月17日(日): 企画中
10月15日(日):『佐藤卓史ピアノリサイタル「ウィーンの音楽(仮題)」』
11月12日(日):『松尾久美ピアノリサイタル「Transciription音楽の妙味(仮題)」』
12月16日(日):『峯島望美(ソプラノ)武久源造(ピアノ)デュオ(プログラム企画中) 』

ではまた来月。御免候へ。

 


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