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ロシアとアルメニアの神秘と幻想 ~ 田中正也リサイタル [音楽のこと]

今日の「ワンコイン市民コンサート」は、『〈個と民族〉ロシアとアルメニアの神秘と幻想』と銘打った田中正也さんのピアノ・リサイタル。
先月がインドネシア・ジャワ伝統のガムラン。今月は、ヨーロッパのようでヨーロッパとも違う、アジアのようでアジアでもない、ロシアアルメニアがテーマ。どんな色彩を伴った、どんな音楽が披露されるのか。
ミステリアスでファンタジックな音楽を求めて、大阪大学豊中キャンパス大阪大学会館へと向かいましょう。

 

ワンコイン市民コンサートシリーズ」に二度目のご登場となる田中正也さんは・・・、
福岡市生まれ。3歳よりピアノを始める。8歳で初めてソビエト時代のモスクワでのマスタークラス受講。選ばれてコンサートに出演、早くも留学を勧められる。その後もロシア・ドイツ・イギリスなどへ学業の傍らコンサートや研鑽に通い、15歳でモスクワに単身移住。 ロモノーソフ記念国立モスクワ大学語学科でロシア語を学びながら世界的ピアニスト、パーヴェル・ネルセシアン氏に師事。チャイコフスキー記念国立モスクワ音楽院予科を経てピアノ科本科に入学。 ピアノをパーヴェル・ネルセシアン、室内楽をニーナ・コーガン、伴奏法をヴァレーリー・ニケーシェチェフの各氏に師事し、Красный Диплом(成績最優秀者のみに与えられるディプロマ)を授与され2003年卒業。 ローム・ミュージック・ファンデーションより奨学金を得て、チャイコフスキー記念国立モスクワ音楽院大学院に進学。ロシア音楽界の重鎮ミハイル・ヴォスクレセンスキー氏に師事し優秀な成績で2007年卒業。
第6回イブラ国際音楽コンクール ピアノ成人部門第1位・全部門総合グランプリ(1997年)
第3回プロコフィエフ国際ピアノコンクール本選入賞(1999年)
第54回ブゾーニ国際ピアノコンクール本選会出場(2003年)
第1回バラキレフ国際ピアノコンクール第2位(2004年)
第2回神戸芸術センター記念ピアノコンクール銀賞(2009年)
第11回スクリャービン国際ピアノコンクール第1位・審査員特別賞(2011年)
第6回東京芸術センター記念ピアノコンクール金賞(2011年)
第13回イル ド フランス国際ピアノコンクール第3位(2011年)
第21 回カントゥ国際ピアノコンクールロマン派部門 第1位・リスト特別賞(2011年)
第2回飛騨音楽コンクール第1位・カワイ賞(2013年)
18 才でアクロス福岡シンフォニーホールでのデビューリサイタルを皮切りに、アメリカ(カーネギーホール、スタインウェイホール)・イタリア・ウクライナ・カナダ・フランス・ロシア・日本の各地で演奏活動を活発に展開する。 国立サンクトペテルブルグ カペロ交響楽団・サマーラ国立交響楽団・クバン国立交響楽団・ミハイルジョラ交響楽団・九州交響楽団等オーケストラとの協演もかさねる。 幅広いレパートリーの楽しいお話付名曲コンサートから、世界的にも希少なプログラムによる「田中正也プロコフィエフピアノ曲全曲演奏シリーズ」まで、繊細かつ大胆な独自の感性で魅力的な演奏と個性的なトークは各地で高評を得て進行中。また日本最高峰の若手ピアニスト佐藤卓史氏とのピアノデュオや、パガニーニの再来といわれる日本フィルハーモニーソロコンサートマスター木野雅之氏との室内楽など多岐にわたる。
2012年6月、2011年度日本芸術センター年間最優秀ピアニスト賞受賞。
2012年11月10日、モスクワ-プロコフィエフ博物館・プロコフィエフホールにて邦人初となる、全ロシアグリンカ記念音楽文化協会主催演奏会をオールプロコフィエフプログラムで開催。
2007年に1st Album “エフェクト” 、2010年に2nd Album“リラの花”を制作。2013年12月ナミ・レコードより「田中正也プレイズ リスト&ショパン」、2014年08月「The展覧会の絵」がリリースされる。「レコード芸術」等で高評を博す。

大阪芸術大学演奏学科講師。
・・・というプロフィール。

前回のご出演、2014年8月の「シリーズ第31回」は『Russian Pianizm(ロシアン・ピアニズム)』と題して、ハチャトリアン、チャイコフスキー、ラフマニノフ、スクリャービン、ムソルグスキーのピアノ曲をプログラムとしていた。今回の「シリーズ第60回」は少し切り口を変えた、ロシアアルメニアからのエントリー。その「神秘と幻想」に迫る。

ロシア連邦アルメニア共和国。かつてソビエト社会主義共和国連邦が存在した頃はひとつの国家を形成していたふたつの国。それぞれの歴史は古く、ソ連以前は別々の成り立ちを有し、ソ連崩壊後も異なる路を歩むことになる、近くて遠い国。コーカサス山脈に隔てられ、気候・風土も異なれば、民族や言語も違って、政治的・社会的・文化的にも距離がある国。そして、それぞれが長い歴史の中、幾多の変遷を経て、様変わりを重ねている。特にアルメニアは他国の支配を受けてその振れ幅は大きい。対するロシアでは大きな革命が起こった。
そこから創出される音楽も互いに独自の様相で、ロシアは政治的な抑制の中、伝統的な芸術を継承しつつ、その一方で個性的で前衛的な表現をも作り出した。ノアの玄孫、ヤペテの曾孫、ゴメルの孫、トガルマの子を始祖とするアルメニアは古代からの民俗音楽が連綿と息づく。

田中正也ピアノリサイタル.jpg


神秘と幻想」に溢れた長い歴史が多くの作曲家、音楽家を育てた二つの国から、今日、田中さんが用意した演目は・・・、

スクリャービンピアノソナタ 第5番 Op.53
プロコフィエフピアノソナタ 第9番 Op.103
     〜 休   憩 〜
アルチュニアン/「3つの音楽的絵画」より
          『風は山脈を吹き抜けた
          『アララト平地の夕べ
          『戦士の踊り
ババジャニアンポエム
ハチャトゥリアンピアノソナタ(1976年版)

前半のスクリャービンプロコフィエフロシア代表、休憩後がアルメニア代表のアルチュニアンババジャニアンハチャトゥリアン、ちょっと他では聴くことが出来ないような、レア物の詰め合わせ?!

それらのプログラムに拠って導き出される、"個と民族"とは? "神秘と幻想"とはどういうものなのでしょう?

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その"mystery&fantasy"を紡ぎ出すのは、オーストリア・ウィーンの至宝、Bösendorfer252。1920年生まれのそのピアノが、ロシア風味、アルメニア風味とマッチするのかどうか。

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開場14:30はいつも通り。ホワイエで受付を済ませると、少し早いクリスマス・プレゼントとしてDonuts Deptさん特製の、"箕面桜井の地元で愛されるお豆腐やさん「池内豆腐店」の新鮮でおいしい豆乳とおからを使用した"ドーナッツが振舞われる。幾つかあるヴァリエーションから選べるというので、ワタシが求めたのはチョコレートがコーティングされたもの。チョコの上に白い雪だるまが描かれて、Instagram映えするかと・・・。ええ、食いしん坊な息子さんへのお土産に。

15:00、開演。ステージ上のBösendorferの前に颯爽と登場する田中正也さん。

まずは、アレクサンドル・スクリャービン(1872年01月06日 - 1915年04月27日)の「ピアノ・ソナタ 第5番 作品53」。1908年に出版されたこの楽曲は、少しドビュッシー的な、いわゆる印象派音楽にも似て、調性感が希薄で、全体に浮遊するような印象を持つ。伝統的なソナタ形式と異なり、一楽章にまとめられながら、転調を重ねて、動機や主題が幾つも現れて、少々つかみどころがない。破綻しそうでいて、その危うさがなんとも神秘的で幻想的。
こういうデリケートな楽曲は、技巧的に頑張り過ぎちゃうと余計チグハグになってしまいそうに思うが、その演奏はあくまで軽やか。今日のワタシの席からはその指先を伺い知ることが出来ないのが残念ではあるが、タッチの柔らかさ、しなやかさが手に取るように分かる。ピアノもそれに応えて、窓から差し込む今日の小春日にも似た、穏やかな声音で歌う。
スクリャービン、好きか嫌いかと尋ねられたらちょっとビミューなところではあるが、田中さんの演奏で少なからず印象が変わって、多分にココロ惹かれるような・・・。

続くセルゲイ・セルゲーエヴィチ・プロコフィエフ(1891年04月23日 - 1953年03月05日)が1947年に書いた「ピアノソナタ 第9番 ハ長調 作品103」。帝政期に生まれ、世界最初の大戦の最中に起こった革命を嫌って亡命、日本経由(→記事参照)でアメリカ、フランスへと渡り、その後ソビエトとなった祖国に戻った作曲家の晩節に書かれた、最後のピアノソナタ。こちらは4つの楽章からなるが、大戦が終結した安堵感・安心感からか、病いの影響に因るものか、政治的批判に因るものか、「戦争ソナタ」と呼ばれた前3作と違って、若干大人し目。序奏からの優しげな旋律が徐々に熱を帯びて、淡々と静かに燃える燠火のようなニュアンスも感じられる。時代の大きな変化点を経て、より「」に向かった、極私的な楽曲。様々な形式の楽曲を創作し、波乱の人生を象徴するように、時代ごとに作風も変化させた作曲家が最後に綴った私的なソナタ。耳にする機会が少ないのが残念。

15分の休憩を挟んで、後半はアルメニア出身の作曲家による3題。
でもね。ワタシが不勉強なのもあるが、アルメニアはよく分からない・・・というか、よく知らない。せいぜいがハチャトゥリアン、それも、その名を聞いてアタマに浮かぶのは運動会の徒競走のBGMでお馴染みの例の楽曲。ええ、かけっこは得意でしたから。
一方、彦根のゆるキャラ的な、「妖怪ウォッチ」的なファミリーネームを持つ方たちは・・・?

アレクサンドル・グリゴリエヴィチ・アルチュニアン(1920年09月23日 - 2012年03月28日)とアルノ・ババジャニアン(1921年01月22日 - 1983年11月11日)は、共にアルメニアの首都エレバン出身で、ともにモスクワ音楽院に学び、ともに母国の民族音楽に根ざした楽曲を書き続けた・・・らしい。
前半の2曲、スクリャービンプロコフィエフが、作曲家の内面、ココロの中の葛藤を描いた抒情詩、閉塞的な心象風景であるならば、後半は開放的な叙事詩。「3つの音楽的絵画」だとか、「ポエム」という表題どおりに、アルメニア人の歴史を語っているようにも聴こえる。嫋やかなメロディーと扇情的なリズムが交互に現れて、その旋律も高音域と低音域が交互に対話しているように感じられて、ドラマティックでもある。
アルメニアという、あまり馴染みのない地域ではあるが、ディアスポラも多くいたアルメニア人の変遷を物語るような、そのメロディーやリズムは中近東〜中東、ペルシア〜トルコ辺りの音楽にも似て、内陸国であるはずなのに、地中海の風シロッコ(Scirocco)やギブリ(Ghibli)、あるいは彼らの遠い先祖を乗せた方舟をアララト山へと運んだ風・・・を感じさせる、栄枯盛衰を語る壮大な歴史的叙事詩のような構成。
確かに、ロシア音楽が「」なら、アルメニア音楽はその「民族」が歩んだ足跡。

ロシアアルメニア。「音楽の都」や「芸術の都」から見れば、辺境の、その外れにある神秘の国ではあるけれど、世界の広さと、二千年の歴史の中でそれがどこか一脈通じているということを教えてくれた、今日のコンサート。運動会はなかったけれど、地理と歴史のお勉強にはなりましたね。

コンサートの合間、実行委員会代表の萩原先生と田中さんのインタヴューの中で、「言葉の違い」というお話しが挙げられた。ロシア語、アルメニア語は「音楽の都」や「芸術の都」で使われるゲルマン語、ラテン語系とはかけ離れているから音楽語法も異なるのではないか・・・ということなのでしょうが、地理・歴史に加えて語学のお勉強ですか?! その楽譜に書かれた演奏記号はともかく、標語、楽語は果たしてお約束通りのイタリア語なんでしょうかね。

気候・風土の影響も語られて、長く厳しい冬に閉ざされるロシアではどうしても自室に籠りがちとなって「」・・・ごくプライベートな音楽になってしまう・・・と話される。

わたくし思うに・・・、
音楽的都会、ウィーンやパリ、あるいはその周辺国には音楽家や演奏家、音楽を好む聴衆も多くいて、彼らは国を超えて往来し、その中でトレンド、流行り廃りが生まれた。そうして、同じ主義・主張を持つものが組織されたりもした。
一方ロシアでは、宗教的、政治的な規制があって、アカデミックな中央ヨーロッパの音楽に憧れつつも、それとは隔たりが生まれてしまった。その音楽的鎖国状態から独自性の高いロシア音楽が生まれ、革命後はよりアヴァンギャルドな進化を遂げる。「」の自発的組織というより、多分に政治的な統制。カトリックとロシア正教の違いというのも影響している・・・のかなァ。
そして、アルメニアは、ノアの方舟から続く移動の歴史と、オスマン帝国やペルシア、ロシアからの支配による動乱の記憶。そこで起こる異文化のフュージョン。他国からの圧力によって、高まる「民族」性。
どちらも掘り下げるには深すぎる。ブログでは足りない。まとめるにはもっと時間が必要で、長大な論文になりそうなのだけど、どこからも単位や学位は頂けそうにないので、今は控えます。そのうち、博士号をください。

ワタシのことよりコンサートに戻りましょう。

田中さんの演奏は、いい意味で、本当に良い意味で、チャラいところがいい感じ!! 技巧で圧倒するというより、柔靱でたわやかな技量。押し付けがましさがなくて、惹きつける感性というか、スキルやテクニックを誇るのではなく、それを表現力のオブラートで包み込んでしまう。ピロシキ風味のフランス菓子・・・?? フランス菓子のようなピロシキ・・・?? 三度目のリサイタルを心待ちにしてしまう。

アンコールは2曲。ピョートル・チャイコフスキー四季 作品37b」より『11月 トロイカ』とプロコフィエフ10の小品 作品12」より『ハープ

シリーズ第61回」は来年1月22日(日)に、『井上ハルカ サクソフォンリサイタル』が予定されています。モダンな楽器のモダンはコンサート。

さて、来週もここ大阪大学豊中キャンパスにお邪魔しての、『日曜ガムラン』。ガムラン・アンサンブル「Dharma Budaya(ダルマ・ブダヤ)」によるワークショップ。その潜入レポート?! 乞うご期待。


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