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ドビュッシーとピアノの謎?! [音楽のこと]

今日のパフォーマンスは多分に学術的なレクチャーコンサート。「ピアノはいつピアノになったのか?」、「なぜドビュッシーの作品は劇的に変わったのか?」、2つの謎に迫る講義と演奏のプログラム。
会場は大阪市北区西天満に聳えるあいおいニッセイ同和損保フェニックスタワー内のあいおいニッセイ同和損保ザ・フェニックスホール(長すぎィ!!)。開場が15:30、開演が16:00。
その講義で肩を凝らせてしまうのか、ドビュッシーのピアノ曲にココロ癒されるのか、ドビュッシーを変えた謎に迫れるのか、彼が作り上げた宇宙の深淵を覗き見ることが出来るのか。
ちょっと古くてちょっと珍しいピアノの演奏とともに期待が膨らみます。

 

ドビュッシーとピアノの謎.jpg

このレクチャーコンサートは、中欧・東欧の音楽史及び民族音楽学を専門とされる、大阪大学文学研究科教授でもある音楽学者、伊東信宏先生の企画によるもの。その著書『ピアノはいつピアノになったのか?』の補遺となるプログラムで、講師として同志社女子大学教授の椎名亮輔先生、ピアノの実演に京都市立芸術大学准教授の野原みどりさんがご出演。

伊東信宏編著『ピアノはいつピアノになったのか?』は拝読させて頂いた(→記事参照)。編纂に当たって、クラヴィコードやピアノフォルテから連なる300年の歴史を具に網羅することはあまりに膨大に過ぎるからか、今日演奏されるドビュッシーブリュートナー・ピアノについての記載は残念ながらない。続編を待たれるところではあるが、それを補完すべく今日のコンサートが企画された。

ワタシは、その広い音域と豊かなサウンドに惹かれて、楽器の中ではピアノが一番の好物。私なりにピアノについて勉強もしたつもり、ピアノ曲も多く聴いてきたつもり。その歴史についても学習した・・・つもりではいるが、いかんせん旧い形態の、その先祖に当たるフォルテピアノや(ハンマー・)クラヴィーアなどについては耳にする機会も少なく、拝見するチャンスもほとんど無い。歴史の中の断片をほぼテキスト・データとして知るに留まる。


毎月通っている「ワンコイン市民コンサート」では、会場である大阪大学会館に常設された1920年製Bösendorfer252の音色に耳を傾け、『シリーズ第44回 ピアノの発見 ~ 武久源造古楽鍵盤楽器リサイタル(→記事参照)」ではJ.S.バッハが活躍した頃の楽器Gottfried Silbermannのレプリカを目の当たりにし、『シリーズ第14回 Collage Piano ~ Ten Hands Dance on Two Piano(→記事参照)』で1920年製Erardの音色に触れることが出来たが、今日はクロード・ドビュッシー(Claude Achille Debussy 1862年8月22日 - 1918年3月25日)の時代の"ちょっと変わったピアノ"を知ることになる。

ドビュッシーの時代のピアノ。それはちょうど旧い様式のフォルテピアノが近代的なピアノに生まれ変わろうとする時期で、産業革命に因って飛躍的に向上した金属加工技術を以って、スティール製の巨大で頑強なフレームを得て、音域が広がり、ダイナミックレンジも格段に広がり、ピアノが「楽器の王様」、「コンサートの女王」へと昇格した時代。大阪大学会館Bösendorfer252などのいわゆるヴィンテージ・ピアノが作られた頃合いでもある。
100年物のヴィンテージじゃあ、毎月
ワンコイン市民コンサートで目にしているし、マグノリアホール常設の1905年製Steinway & Sonsも知ってるじゃん!!

止まれ。

本日フェニックスホールのステージに登場するのは、当時造られたピアノの中でもひときわ珍しいブリュートナー。世界四大ピアノメーカーのひとつであるブリュートナー社(Julius Blüthner Pianofortefabrik GmbH)製作のそのピアノは「アリコートシステム(Aliquot System)」という独自の弦構造を内包する。そのサウンドの秘密が一つ目のナゾ。

高音域の響きを強化した明瞭な音色に惹かれて、ドビュッシーBlüthnerを手に入れたのが1904年。そこから彼の曲想に変化が起こったのではないか・・・というのが二つ目のナゾ。

"Aliquot"とはラテン語で「もうひとつの〜」という意味だそうで、通常ハンマーによって打たれる3本の弦に加え、高音セクションに共鳴効果を目的とした第4の弦を張ったのが「アリコートシステム」。

このアリコート弦はハンマーによって打弦された3本の弦から反動エネルギーを受け取って共鳴し、3本の弦とアリコート弦は位相差をもって振動することになり、アリコート弦の調律方法によって様々な効果を試みることが出来る・・・らしい。

弦を追加して細く弱い音域を補強しようという工夫は理解する。一部の音域にだけハーモナイザーの効果を付与して、高音域をより一層煌びやかにさせようという狙いは読み取ることが出来る。単純に高音域だけハイにイコライジングしたのとは違うというのは想像出来る。シンセサイザー的に言うと、高い音域にだけもうひとつオシレータ(VCO)が追加された感じ? 直接打弦・・・発音させないのだからフォルタ(VCF)か? でも、それで全体のバランスは保てるのかしらン? おそらく、それぞれの弦の太さや張力でチューニングすることになるのだろうが・・・、はて?? 実際にその音色を聴いてみないことには認知出来そうにない。


Blüthnerの「アリコートシステム」とはどういったものなのか。それによって、クロード・ドビュッシーの作品はどのようにトランスフォーメーションしたのか。レクチャーコンサートで解き明かして頂きましょう。

開場なったホールに入り、指定された席を占める。小さなステージの上に設置されたBlüthnerは、3本の脚こそ年代物らしい意匠となっているが、ちょっと小ぶりなだけで、一見フツーのピアノに見える。

開演直前までチューニングに奮励されるのはフォルテピアノ ヤマモトコレクション山本宣夫さん。阪大会館Bösendorferを公演ごとにメインテナンスされたり、そこに1920年製Erardを持ち込まれたお方ですな。

残念ながら、ワタシの席(1-C-19)は舞台上手側でピアノの鍵盤が見えない。まぁ、今日はピアニストの手腕を拝見するのではなく、ピアノの音を拝聴するのが主題であるからよしとしましょうか。

ピアニスト野原みどりさんが披露される演目は、

ピアノのために(Pour le Piano) L.95 (1901年)

     1.前奏曲(prélude)

     2.サラバンド(Sarabande)

     3.トッカータ(Toccata)

版画(Estampes) L.100 (1903年)

     1.(Pagodes)

     2.グラナダの夕べ(Soirée dans Grenade)

     3.雨の庭(Jardins sous la pluie)

《休憩》

喜びの島(L'Isle joyeuse) L.106 (1904年)

映像 第1集(Images I) L.110 (1905年)

     1.水の反映(Reflets dans l'eau)

     2.ラモーを讃えて(Hommage à Rameau)

     3.運動(Mouvement)

もちろん、オール・ドビュッシー・プログラム。

変化前と変化後、Blüthner以前とそれ以降。ちょうど休憩の合間にドビュッシーBlüthnerを買いに出た・・・ことになるわけですな。

開演時間となって、まずステージに登壇されたのは今回のイベントを企画・構成された伊東先生。
この公演(講演?)の趣旨説明。
10年前、『ピアノはいつピアノになったのか?』を出版した際、ページ数の制約か時間の都合か、ドビュッシーの時代は触れられずに終わった。当時、その内容を紹介すべく、同様の公演が8回に渡って催されたが、ドビュッシーが愛用したBlüthnerをステージに持ち出すことなど到底出来ないであろうと残念されたそうで、その後、ヤマモトコレクション山本さんにお声を掛けられたところ、同時代の同型を倉庫に保管しているとの由。それを修復するのに4年もの歳月を要し、この度ようやくの披露に漕ぎ着けたとのこと。4年越し、10年越しのプロジェクト!! 千載一遇の公演になったというですな。

伊東先生から椎名先生にバトンタッチされて、ドビュッシーBlüthnerと出会うことになる経緯から。

それまで連れ添ったリリーことマリ・ロザリー・テクシエのもとを離れ、エンマ・バルダックとW不倫(!!)の末に英国領ジャージー島への逃避行。リリーが自死を企てている一方で、クロードとエンマはバケーションを楽しんでいたわけで、そりゃあスキャンダルになりますわな。

敬愛する大師匠フレデリック・フランソワ・ショパンがジョルジュ・サンドと手に手をとってマズルカ島へと免れたところまでトレースしているわけですな?!

ステージ後方の大きなスクリーンにはスライド、クロードやリリー、エンマの肖像写真や英仏海峡近辺の地図が投影される。

そこで出会ったのがBlüthner。ウィーンやパリに並ぶ音楽の都ライプツィヒで作られたそのピアノの音色が甚くお気に召した
ドビュッシーはエンマやその子供達との新居にそれを持ち帰ることになる。

ということで、彼が愛したBlüthnerとはいかなるピアノか? 他のピアノと異なるところはどこか?

ユリアス・フェルディナント・ブリュートナーと彼の工房で作られたピアノは、他で製作されたものと異なる点が2つあって、ひとつはそこに組み込まれた「アリコート」、もうひとつは「アクション構造」。

真ん中の"ソ"の音・・・"G3"から最高音まで追加された第4の「アリコート弦」。それはG3〜C4までが1オクターブ高く調律されて、それよりさらに高い音域用は3本の通常弦とユニゾンになるようにチューニングされているとのこと。
通常弦と共鳴して発音する・・・やはりオシレータ(VCO)的役割を持つことになる???

細くて弱い高音域を補って、低音域とのバランスをとりつつ、より煌びやかな印象を与えるための創意。

今回この公演のために持ち込まれたBlüthnerは1913年製、長さが1,890㎜、幅1,510㎜でAAA~a4の音域を持つ85鍵タイプでペダルは2つ。フレームは鋳鉄製で鍵盤は象牙製、弦は全て二重交差弦であるらしいが、サイズが変わると「アリコート」のチューニングも変わるのかしらン? その辺りを山本さんにお伺いしたかったような・・・。

一方の「アクション」は、それまでのピアノ(フォルテ)ともモダン・ピアノとも異なるそうで、キーボードをリリースした際にハンマーを弦から遠ざける役割を持つエスケープメントと呼ばれる部品が、それまでのものが1つ、現代の主流は2つあるが、Blüthnerは その中間、1つのエスケープメントにスプリング(バネ)を足して、素早いハンマー・リリースを促すようにしている・・・とか。ハンマーの離脱が遅いと同音を連打することが難しい。速いパッセージに耐えられない。まさにピアノの心臓部と呼べる部位で、今でこそ規格化されてしまったが、ヴィンテージ以前の時代はメーカーごとに工夫を凝らしていたそうな。

んン、ボディの中を覗きたい・・・!!!! 早く演奏を聴かせて頂きたい!!

レクチャーは一旦休止、いよいよみどりさんによるBlüthnerの実演。
みどりさんによると、1913年製Blüthnerは現代のピアノとタッチが全然異なるそうで、今時のそれはいかに弾きやすくなったかと実感してしまうほど歴然とした差があるとのこと。いい加減なプレイは受け付けてもらえないのだとか。

まずは、問題の"真ん中の「ソ」"から上の音を聴かせて頂く。倍音が増量されてキラキラと、"共鳴"というより"反射する"ような印象。「アリコート」だけが遊離して聴こえるということもなく、ブリリアントでクリア。磨き上げられた宝石を想起させる。
演奏は「ピアノのために」から。
ドビュッシーBlüthnerを手に入れる直前の作品で、やや古典的ではあるものの、それは紛れもなくドビュッシー。その音楽宇宙の中、光の揺らぎ、風の戦ぎ、水の揺蕩いが目の前に広がるような、すでに絵画的・・・動きを伴った映像的な所感を抱かせてくれる。

続く「版画」でそれはより明確となって、もうね、Blüthnerとかどうだとかは関係ない!!!?
ドビュッシーは(宇宙を創造された創造神)
Debussy


どうでもよくなくて、Blüthnerの音色に耳を澄ませる。
アタックはほんの少ォ〜し緩慢に感じられて、そのかわり減衰時間が長いような余韻が続く。「アリコート弦」はダンパーペダルの干渉下にない?・・・からなのかも知れず。
アタックからサスティーンまで音量変化が、現在のピアノと比して、穏やかというか緩やかなんでしょうか?

打弦されずに共鳴で鳴る「アリコート」がいわゆるディレイ効果も伴うようで、ごくわずかな時間差で発音するから"反射"するように聴こえる・・・のかしらン?
昔とあるオーケストラに参加した際、こんな感じに一人時間差発音するグランドハープ風の音色をYAMAHA DX-7ⅡFDで作って某指揮者さんにえらく怒られた記憶が・・・(ワタシの黒歴史)。

あまりレスポンシヴルじゃなくて、フランツ・リストの「練習曲」みたいな楽曲は嫌うかもしれない。超絶技巧的な演目には相応しくないかもしれない。サイズ的にもいわゆるコンサート・グランドじゃないし、あまりダイナミックでもないから大ホール向きでもない。合奏より、ソロでゆったり唄わせるのに適したピアノ・・・でしょうか。

100年を経て、4年越しでリペアされた音で、制作当時の音色とは少し違うのかも知れないけれど、用法さえ弁えれば、今でも十分通用する・・・そんな印象。どちらかというと硬いのだけれど、強過ぎることは無く、歪み、滲みが無くて、ひとつひとつの音を拾いやすく感じた。
Bösendorfer
Erardでもなく、Steinwayとも違って、Blüthner独自の音色であることは間違いない。
あくまでイメージですが、水平方向に広がるというより、垂直方向に伸びるような、そんなフィーリング。

20分のインターミッションを挟んで、後半は「喜びの島」の演奏から。
Blüthnerを手に入れてから仕上げられて出版された楽曲ではあるけれど、そのスケッチは前半の2作品より以前に作られていたようで、大きく変わるところは少ないが、椎名先生によると、楽曲終盤のファンファーレに「アリコート」の音域が効果的に使われているとのこと。草稿が残されていれば、出版されたヴァージョンと聴き比べてみたいところ。

レクチャーの第2部は楽曲解説とドビュッシーを取り巻く環境の変化、同時代を生きた人たちの証言によるドビュッシー像の紹介など。

エンマやその子供達と暮らした邸宅にはピアノが3台置かれていて、メーカーから無償提供されたPleyelのマホガニー製アップライトより専らBechsteinのアップライトとジャージー島から持ち帰ったBlüthnerのグランドを愛用していたのだとか。

ショパンが愛したフランス製のPleyelではなく、ドイツで製造された2種のピアノを重用したというのはどんなこだわりがあったのか。
それ以降曲調に変化が生じたとするなら、作曲するにあたって、音量よりもクリアでピュアな音質が彼にインスピレーションを与えてたのだろうと思われるが、例えば鍵盤のタッチの感触によって生み出されるフレーズも変わるだろうし、そこから響くハーモニーもニュアンスを異にするだろうし、単に耳障りが良かった、 キーボードの感触が好みだったか、さてその真相は・・・??
モーリス・ラヴェルやリカルド・ビニェス、アメデ=エルネスト・ショーソンらとの交流やエミール・ヴュイエルモーズ、マルグリット・ロン、アルフレッド・コルトー、ルイ・ラロワなどの証言をもとに
ドビュッシー像を具現化、彼自身が作り出したキャラクターであるクロッシュ氏を紹介することで、印象派・象徴派と揶揄された当時の心象を浮き彫りにしていく。

気難しい皮肉屋さんは、絵画や文学、自然の中から音を拾い出す感受性のヒトで、「ピアノにハンマーが付いていることを忘れさせることが大切」、「ペダル操作は呼吸のように」と仰ったくらいだから、感情をありのまま、パーカッシヴに叩きつけるのではなく、あくまで息吹のように、拾い集めた断片を粒子化してそれを音楽へと結晶させる。それが「音楽的印象主義」めいた表現となった・・・ということでしょうか。強引な力技が嫌いなナイーヴな方だったのでしょうか。
彼が使ったBlüthnerは義理の息子であるラウル・バルダックが戦火を逃れた疎開先へと運び、今はその地の博物館に安置されているそうな。南仏コレーズ県ヴリーヴ=ラ=ガイヤルド、そんな僻地までは見に行けませんな。

プログラム最後は「映像 第1集」。これこそBlüthnerのための楽曲、特に『水の反映』はその印象が強い・・・ように思う。ドビュッシーが創り出した音楽宇宙の理(ことわり)の中心がそのピアノだったのでしょうか。

Blüthnerだけがドビュッシーの宇宙を変容させたとは思えない。
音楽に関心を示さなかったリリーと自身が声楽家でもあったエンマ、二人の女性との関わりも大きい。伴侶が変わり、そのことで激しく非難を受けて、取り巻き連の顔ぶれも変わった。オペラ『ペレアスとメリザンド(Pelléas et Mélisande) 』を終えて疲弊し、スランプに陥る中、「十八世紀趣味」、「ロココ趣味」から新しい音楽へ脱却しようと、何かきっかけになるものを探していたのかもしれない。
ルードヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンが耳を病んで「ハイリゲンシュタットの遺書」を認め、それから後「傑作の森」へと踏み込んだように、『ペレアスとメリダンド』をひとつの区切りとして、新しい宇宙を創造するための重力的特異点がBlüthnerだったのかしらン。

アンコールは「レントより遅く(La plus que lente (Valse))  L.121」。古いピアノにはこの楽曲が合うのではないかとみどりさん。1910年に作られたゆったりした作品は、Blüthnerにハマり過ぎるほどぴったりな気がして、Blüthnerを使って書かれた楽曲はそのピアノの音でないといけない・・・ようにも思えてしまう。
Blüthnerで演奏されたCDなり音源があれば、それを探したくなりました。
ドビュッシーがそのピアノを手に入れる以前に作曲された、例えば「夢想(Rêverie) L.68」や「ノクチュルヌ(nocturne) L.82」、ああ、いっそピアノ曲を全部。
晩年の「6つのソナタ」もそれを使って書かれたのか。興味は尽きない。
修復された1913年製Blüthnerでの演奏会が今後もあれば、それは是非とも伺いたい。ああ、いっそ
ワンコイン市民コンサートで1920年製Bösendorfer252と夢の共演 ~ 『Collage Piano Ⅱ」とか実現しませんかね??


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