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ピアノの発見 ~ 武久源造古楽鍵盤楽器リサイタル [音楽のこと]

本日の「ワンコイン市民コンサート」はいつもとほんの少し趣きを変えて、旧い時代の鍵盤楽器を用いての大バッハ曲集。
ヨハン・ゼバスティアン・バッハを始め、17世紀初頭から18世紀半ば、いわゆるバロック期に活躍した作曲家や演奏家が使った古楽器、初期の鍵盤楽器・・・チェンバロや原初のピアノ大阪大学会館のステージに上るという。
これは見逃せませんぞ。

 

バッハの時代の鍵盤楽器というと、まず思い浮かぶのはオルガンで、それは楽器というより巨大な発音装置。キーボードこそ装備するものの、それは発音するためのスイッチに過ぎず、実際に音を発生させているのは数多のパイプ。管楽器の集合体のような代物。管楽器のキーが横一列に並んでキーボード。
ルネサンス期、西洋音楽の黎明期は教会音楽の時代。礼拝や典礼のために用いられ、それは主に教会の中に留まった。やがて、芸術性の高まりとともに、バロック音楽へ移行する中で、宮廷へと進出し、より豊かな音を求めて多くの楽器が発明されて、そのための器楽曲が作られるようになった。しかし、今日で言うピアノはまだ普及するに至らず、自身宮廷オルガニストでもあったバッハは、オルガンのための楽曲や、ピアノ以前の鍵盤楽器であるクラヴィーアのための楽曲を多く遺した。

で、クラヴィーアってナニ?

オルガン以外の、主に弦を使った鍵盤楽器。チェンバロなどの發弦楽器であったり、クラヴィコードと呼ばれる打弦楽器の類い。オルガンに対して、モダン・ピアノのご先祖さまみたいな楽器。

今回のコンサートでは、J.S.バッハの楽曲を演奏するに当たって、当時使われたであろう鍵盤楽器(のレプリカ)が登場する。
ひとつは「ジャーマン・チェンバロ」、もうひとつは「ゴットフリート・ジルバーマン・ピアノ」。

チェンバロは、グランドピアノとよく似たケースの中に、これもピアノと同様に幾本もの弦を張って、それを撥いて発音させる鍵盤楽器。ピアノが鍵盤に連動したハンマーで弦を打つのに対して、チェンバロは鍵盤の先についた爪で弦をひっかいて音を出す。打鍵の強さが反映しづらいので、強弱をつけるために複雑な機構を併せ持つ。
中世の終わりから18世紀後半の古典派の時代まで広く使用されていたが、ピアノの登場とともにその地位を追われてしまう。
バロック音楽の中にとどまって、現在の音楽シーンで目にする機会は少ない。が、モダン・キーボーディストには意外に馴染み深い。というのも、エレクトーンなどの電子オルガンや、電子ピアノの中にプリセットされた音色のひとつとして残っている。その構造から音色がギターに近しいこともあって馴染みやすいからか、ポピュラー音楽では、シンセサイザーなどでチェンバロ(ハープシコード)風の音色を使うことも多い。エレクトリック・ロックと相性がいい
見たことも触れたこともないけれど、音色には懐かしみと親しみを覚えるチェンバロ。'60年代にはバロック・ポップが流行し、'70年代にはホーナー・クラビネットなる電子楽器が流行りましたなぁ(と遠い目。歳がバレる?!)。そうそう、Eric Patrick Clapton(エリック・クラプトン)が在籍した時代のThe Yardbirds(ヤードバーズ)の「for your love」の印象深いイントロでもチェンバロ(風?)の音色が聴かれます(今聴くと色んな意味で感慨深い)。
チェンバロ
は地域ごと、時代ごとにヴァリエーションされて、今回ステージに登場するのは「ジャーマン・チェンバロ」。その名の通り、クリスティアン・ツィルが手掛けたドイツ仕様で、大バッハが使っていたのもこの様式であったとか??

もう一台が「ゴットフリート・ジルバーマン・ピアノ」。ドイツのバロック・オルガン製作者であるゴットフリート・ジルバーマンが製作した「ピアノフォルテ」。
1700年頃にフィレンツェにてチェンバロ製作家のバルトロメオ・クリストフォリによって考案された最初の「ピアノフォルテ」は幾多の改良を経て、亜種を産み出し、ヨーロッパの王族、貴族に普及し、ドイツ語圏ではゴットフリート・ジルバーマンがプロイセンのフリードリヒ大王の庇護のもと、その制作にあたった。
フリードリヒ2世の与えた主題による即興演奏を行ったのがJ.S.バッハで、その時演奏に使ったのがジルバーマン制作の「ピアノフォルテ」であったとかなかったとか云々。
打鍵による強弱の変化はつけられるが、音の響きはモダン・ピアノとかなり異なり、より軽快で、持続は短く、音域ごとに音色がかなり異なるのだとか。

チェンバロ(ハープシコード)やクラヴィーアに対して、オーケストラより広い音域とよりダイナミックな音量を求めて、ソロでも合奏でも使える、楽器の王様と呼ぶに相応しい万能楽器を目指して進化を続けたピアノフォルテピアノ
弦楽器や管楽器のシンプルさに対して、オルガンやチェンバロピアノなど鍵盤楽器はいかにも大層でメカニカル。電気が発明されてから電子ピアノやシンセサイザーが登場したように、工業の発展ありきな発音装置。時代とともに発展し、楽器の王様にまで昇格したピアノ
時代とともに大きく変化したからこそ、バッハの楽曲を演奏するにはその当時の楽器が必要。"音楽の父"はオルガンやクラヴィーアのための楽曲は遺しても、ピアノのための作品は書いておられない。その作品の真意を汲み取るには、その作品が作られた頃の楽器で演奏されるのが望ましい。

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シリーズ第44回となる「ワンコイン市民コンサート」でそれら旧い時代の鍵盤楽器を演奏されるのは武久源造さん。チェンバロピアノオルガンを中心に各種鍵盤楽器を駆使して中世から現代まで幅広いジャンルにわたり様々なレパートリーを持つ。特にブクステフーデバッハなどのドイツ鍵盤作品では、その独特で的確な解釈に内外から支持が寄せられているという。
今日も2台の鍵盤楽器を使ってのオールバッハプログラム。

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予定通り、開場が14:30。
雨上がりの待兼山に登って、開場と同時に席を占めて、ステージ上を見やれば、見慣れた1920年製Bösendorfer252の姿はそこにはなく、代わって置かれているのは、上手にジャーマン・チェンバロ、下手にゴットフリート・ジルバーマン・ピアノ。開演前から聴衆の関心の的。どちらも武久さんの私蔵品で、貴重なジルバーマン演奏出来る状態のものは現存せず、チェンバロフォルテピアノ製作家の深町研太さんが、1747年に製造されたそれを復元した複製品。
今回、いつものバルコニーのセンター席にするか、鍵盤の手元が見えるバルコニー下手にするかと悩んだのだけど、結局いつもの指定席。

本日の演目は、

第一部:ジャーマン・チェンバロによる演奏

  • トッカータ ニ長調 BWV915
  • パルティータ 第四番 BWV828

第二部:ジルバーマン・ピアノによる演奏

  • シャコンヌ
  • パルティータ 第六番BWV830
  • その他

15:00。開演はチェンバロによる「トッカータ」から。煌びやかな音色と相まって、"天上の囁き"とまでは言わないにしろ、それに近しく感じられる即興的な軽やかさと、数学的な緻密さと繊細さを併せ持つ。モダン・ピアノのようなダイナミクスは表現出来ないかわりに、レジスターを操作して、その音色を変化させるのが興味深く面白い。
さらに興味を唆るのはその足元。このチェンバロは2段の鍵盤に加えて、足鍵盤まで装備されている。ワタシの席からは演奏者の手元が見えなかったので、鍵盤に対する音階は、どう割り振られているのか詳しく知ることが出来なかったが、恐らく低音部を受け持つペダル・キーボード。そのための長い弦と、それを収めるケースにちゃんと蓋までついているのが面白い。
エレクトーン歴もそこそこのワタシ、足鍵盤萌えしてしまう。
2曲目の「パルティータ」に進む前に、武久さんから楽曲についての解説。「パルティータ」は主に宮廷などでの食事のためのBGMであったそうで、しかしバッハのそれは思わず聞き入ってしまうような曲調であったために不評であったとか。
演奏もさることながら、トークも興味をそそる。
バッハクラヴィーアのための練習曲として書いたその「パルティータ」、冒頭の序曲はチェンバロで、中間部はジルバーマンと2台の楽器を使い分けての演奏。
チェンバロが煌びやかで軽やかなら、ジルバーマンは円やかで優しげ。モダン・ピアノと比べるとうんと軽く繊細な印象で、強いて言えば小さめのアップライト・ピアノに近いが、弦長が長いからなのか、アタックこそ円やかなのだけど、余韻は思いの外長い。よくチューニングされたトイ・ピアノ・・・という感じの可愛らしい音色。バッハの時代のピアノフォルテを復元し、それをよりよい音にするために研究のうえに手を加えていったのだとか。そのあたりの解説も興味深い。複雑なピアノのアクション、打鍵に対する反応とそこから得られる音色、恐らく背反するそれらを折衷させるのが至難であったのではないかと想像する。

休憩を挟んだ後半はジルバーマンの時間。
「無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ 第2番 BWV. 1004」の最終楽章を武久さん流の解釈で、当時バッハが演奏したかもしれないジルバーマンで。その美しい旋律がジルバーマンの優しい音色と溶け合って、心地いいというどころか、胸の奥深くまで染み込んでくるような。
最後の「パルティータ」も、クラヴィーアのための楽曲とされるが、このジルバーマンにこそ相応しいのではないかと思えるくらいに恍惚を誘う。古いピアノフォルテでの演奏を聴いてしまうと、モダン・ピアノでのそれはちょっと粗野に感じてしまうくらいにリラックスさせる。
このピアノも、より表現力を高めるために、オルガン式にレジスターを装備しているのでしょうか。ダイナミクスこそ大きくないが、それに代わる、チェンバロのようなシステムが組み込まれている様子。

今回のタイトルは『ピアノの発見』。
バッハは"ピアノのための曲"こそ書き残していないが、それはピアノフォルテがまだ完成形に至っていないということもあったであろうし、広く普及していないからでもあったのだろうし、より一般的なクラヴィーア曲としたのだと想像するが、原初のピアノにその可能性を見出してもいたのだろうとも思う。
本人はあくまで宮廷付きのオルガニスト、演奏家で、そのために楽曲を創りこそすれ、まさか100年、200年、300年先まで愛されることになる作曲家とは考えていなかったのではないか。ピアノフォルテモダン・ピアノまで進化することを予想していれば、そのための楽曲を書き残していたのでしょうか。

今でこそ、ドビュッシーやサティ、フランスの近代音楽に興味も関心も移ってしまったワタシではあるのだけれど、その昔、ハードロックにハマっていた頃、「それならバッハを勉強しなさい」とエレクトーンの先生に薦められて、"音楽の父"が残してくれたクラヴィーアのための楽曲をカジり倒していたのが懐かしく思い出される。Jon Lord(ジョン・ロード)の中にヨハン・ゼバスティアン・バッハ(Johann Sebastian Bach)が生きているし、ハードロックの中にバロック音楽が残っている。旧い時代のチェンバロクラヴィーアピアノフォルテがあってこそのモダン・ピアノ。こうして、それら古楽器演奏会を拝見する機会に恵まれたことはまさに至福。貴重な時間を得た思いがします。

アンコールは、チェンバロジルバーマンで小品を一曲ずつ。もう少し聴いていたような演奏会でした。

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終演後、許可を得て、ステージに上がり2台の鍵盤楽器を間近に拝見。他のギャラリがおられないのなら、少しだけ弾かせて欲しいと思うほど興味をそそられた。それぞれの音域を知りたい。発音する仕掛けを覗いてみたい。その感触を確かめたい。と興味津々。なにしろ、鍵盤萌え、ペダルキーボード萌えッ!!
手鍵盤がFから始まっているのに、足鍵盤はCから始まっている(?)のは何故だろう。音階の割り振りがモダン・ピアノとは異なるのかしらン? ・・・と興味はつきない。

で、明日に予定されている『マスタークラス』も聴講したかったのだけど、月末は仕事をサボれない!? 近いうちに『武久源造古楽鍵盤楽器リサイタル 〜 「ピアノの発見第2楽章』が開催されることを切望するしかない・・・のでしょうか?!

来月、9月は19日(土)14:30開場、15:00開演予定で『佐藤卓史ピアノリサイタル 〜 The World According to Takashi』。
夭逝し、未完成のまま残されてしまった楽曲が多くあるシューベルト。佐藤さんはその未完作品を補筆し、完成させて、ご自分の手で20年かけてシューベルトの室内楽作品全曲演奏するという、壮大なライフワークを持っています。
ワンコイン市民コンサート』でもオールシューベルトプログラムとして、
楽興の時 第3番 ヘ短調 D780-3
即興曲 変ト長調 D899-3
即興曲 変ホ長調 D899-2
メヌエット ホ長調 D335
ピアノ・ソナタ 第9番 嬰ヘ短調 D571+604+570 (未完・補筆完成版)
12の高雅なワルツ D969
アダージョ ト長調 D178 第2稿 (未完・補筆完成版)
幻想曲 ハ長調 D605 (未完・補筆完成版)
ピアノ・ソナタ 第13番 イ長調 D664
が予定されています。聞き逃せない、見逃せない。


 


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